講演の賢い情報

市場に潜在的な売り手がいなくなった時を考えてください。
市場気配値が一七○円〜一九○円の場面です。 この時に、M氏は相場が有利に反転しているのを見ているわけですから、無理して一九○円のオファーを出す必要があるのでしょうか。
ポジションを長期保有できるわけですから、ゆっくりと市場の動向を見つめてから、オファーを出せばよいのです。 それに対して、S氏はピンチです。
絶対にポジションをスクェアにする必要があるわけですから、なにが何でも買い戻しをしなければなりません。 こうなったら勝負はついたのも同じです。
市場は冷酷ですから。 さて、M氏ばかりいい気にさせるのはやめにしましょう。
今度は彼に辛い思いをしてもらいます。 ここではポジションリミットの制約をかけます。
つまり、M氏が株式を二株までしか弱者を徹底的にやっつけにきます。 市場終了五秒前になってS氏はM氏に頼んで、「何でもいいから買わせてくれ」とお願いするしかありません。
その結果が二五○円で三株分を買い戻せたとしましょう。 さて、その結果と反省はどうなるでしょうか。
R氏のレポートは変わりません。 残りの二人ですが、きっと次頁のような感じではないでしょうか。

たったこれだけの差ですが、結果的には取り返しようもない損失になってしまいます。 二人のトレーディング評価も、事実とまったく異なります。
それでも「勝てば官軍」なのです。 これが相場の「恐ろしさ」です。
しかもこの状況下で、潜在的な売り手にならざるをえなくなっています。 そして、さらに悪いことに、丸儲産業の減益が発表されたわけです。
このニュースを見て、S氏がすかさず売りを浴びせにきます。 ここでは、R氏が一六○円のビッドを出していたとしましょう。
一六○円が売られ、R氏の次なるビッドが一四○円でした。 それに対してS氏のオファーは一六○円です。
この状態でM氏の心理状態を想像してみてください。 三人の中で、一番苦しい状態に置かれているのがM氏だということがおわかりいただけるはずです。
最後の取引価格は一六○円でした。 また、市場のセンチメントは売り優勢です。

保有できないものとします。 結構辛いですよ、これは……。
二一木氏は二株しか保有できませんので、丸儲産業の減益発表前にすでにポジションリミットが一杯になっています。 したがって、一七○円のビッドを指すことがすでにできません。
M氏が保有出来た場合ここで苦し紛れに一五○円のオファーをM氏が出します。 市場の気配値の真ん中に割って入ったわけです。
この何でもないように見える行為が、みずからの首を絞める、たいへんな危険をはらんでいるのです。 M氏のオファーを見て、残りの二人は考えました。
R氏これは売り気配が強い。 もっと安く買えるはずだ。
ビッドを下げよう。 早く売らないと、他人に先を越されてしまう。
さて、さて、この後は、株価は暴落の一途です。 一四○円のビッドはなくなり、次のビッドは一二○円でした。
祷曙するM氏を尻目にS氏は売り浴びせます。 ここで話をもっと皮肉ったものにしましょう。
実はS氏は長期ポジションを取れることになっていました。 M氏はそれが許されていません。
こうなると先ほどの例とは全く逆転したことが起こります。 R氏は早々と店じまい。

残った二人ですが、市場終了間際に今度はM氏がお願いをして、S氏に株を二株買ってもらいました。 価格は一○○円です。
さて、清算ならび反省会と行きましょうか。 ご覧のとおりM氏の大負けです。
一番興味のある彼のレポートを、覗き見しましょう。 それによると「予想外の減益発表に狼狽売りが出た。
一時的な動き。 丸儲産業はまだ長期的には買える株である。
」となっていました。 レポートにあるとおり、確かに一時的な動きかもしれませんが、市場の力学を学ぼうとする意欲は全く見られません。
自分が一五○円のオファーを出したことで、市場を崩してしまったことも教訓として生かされていないようです。 市場とは、とてもセンシティブなもの。
オーダーの出方を見ただけで、流れがガラッと変わってしまうこともあるのです。 M氏のようなトレーダーはいくら経験を積んでも勝つことはできません。

さて、最後に市場を混乱させる制約としてあるのが、損切りリミットです。 もうこれについては説明しなくてもよいでしょう。
前の二つの制約と同様に、相場を動かす大きな力を持っています。 自分であれこれと想像してみてください。
以上、市場を混乱させる要因を三つあげました。 こうした制約が、相場の力学として働いています。
仮にいま市場に、どんな大きな金額でも、長期間にわたって、かつ損失を気にせずにポジションを持てるトレーダーがいたら、こんな人とは競い合ってはいけません。 決して勝つことはできないはずです。
もちろん、こんなトレーダーは存在しませんが、しかし、これに近い存在があります。 T銀行です。
とくに、いまや世界経済を牛耳っているアメリカのFです。 彼らが本気になれば、誰も勝つことはできません。
ともかく、このほかにもいろいろな制約がありますが、どんな制約があるにせよ、トレーディングを行ううえでもっとも重要なことは、決してこれらの制約を人に知られてはならないということです。 昔の話でしたが、よく自分のポジションリミットの大きさを自慢するトレーダーがいました。
経歴書に書くのはよいのですが、自分の弱点を人にわざわざ教えているのに過ぎず、あまり賢い選択とは思いません。 市場という大海原で生き残っていくためには、誰にも悟られず、ずっと黒子に徹するのが基本なのです。

他人を手っ取り早く信じさせるにはどうするか、ご存知でしょうか。 野球の試合を使って説明しましょう。
まず、はがきを三八枚用意してください。 そして、六四枚のはがきに次の試合はGが勝つと書き込み、残り六四枚にTが勝つと書いて三八人に送りつけます。
相手は誰でもよいです。 いま、Tが勝ったとしましょう。
そうしたら次にTが勝つと予想したはがきを受け取った六四人のうち、三二人にGが勝つと、残り三二人にTが勝つと書いて送ります。 また、Tが勝ったとしましょう。
また同じ要領で、一六人ずつに送りつけます。 何回が続けた後、「今度の試合を私の予想に賭けませんか」と誘いをかけます。
残った人の何人かは編されてお金を送ってくるそうです。 世間とは恐ろしいものです。
念のためこの件については、私は加害者でも被害者でもありませんので、誤解のないように。 これは詐欺のもっとも初歩的な手法だそうですが、トレーディングの世界はこんなわけにはいきません。
それぞれに相場予想を立てて、取引を行っていきます。 トレーダーが相場予想を立てるときにまず考えることは、市場の注目している材料が何であるかです。
この材料をもとに、将来がどう変化するか推測を行うわけです。 たとえばアメリカの景気動向が材料視されているのであれば、政府高官の発言や、経済指標の推移から将来のシナリオをつくるのです。

そのシナリオをもとに、将来の相場水準の見込みを立てるわけです。 このことをシナリオメークと言います。
相場の鉄則に「人の言うことはあてにするな」という言葉があります。


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